ヒゲブトハナカミキリ

Pachypidonia bodemeyeri(Pic

体長|10.9~21.3ミリ

時期|7~8月

レア度|★★★★★

RDBカテゴリー|なし

環境|森林

分布|北海道・本州・佐渡・四国・九州

1. 2010.08 長野県(やらせ撮影)

2. 2010.08 長野県(やらせ撮影)

独特の風貌をした樹洞性のハナカミキリで、深みのある暗赤色~紫黒色の上翅が美しい魅力的な種。主に山地の原生林に生息し、トチノキ・ハルニレ・ミズメ・センノキ・ブナ・イヌブナ・ミズナラ・ヒメシャラ・イタヤカエデ等、各種広葉樹生木の洞に見られるが少なく、なかなかお目にかかれない珍しい種。大木の洞で見つかる事が多いものの、幹の直径が20センチ程の細めの木の洞で見つかる事もある。一生の大半を樹洞内で過ごすと思われるが、早朝や夕方には樹洞から出ている事もあるらしい。また、花や灯火に飛来した例も僅かながらあるという。学名からパキピドの愛称で呼ばれる事もある。

 2010年8月。この日もお馴染みのNさんと共に撮影に出かけていた。狙いはヒゲブトハナカミキリ(以下パキピド)。とても珍しい樹洞性のカミキリムシである。Nさん選定のそのポイントは、急な斜面の所々にブナやトチノキの巨木が見られ、いかにもな雰囲気が漂っていた。まずはパキピドの住処である樹洞を探さないことには始まらないという事で、各々分かれてとりあえずは樹洞探しをする事にした。するとほどなくして、そこそこ大きなトチノキの樹幹にぽっかり穴が空いているのを発見!近づいて見ると穴自体は小さいものの、その中はそこそこ広い空間が広がっているようだった。「むむむ!これは良いかもしれない!」

 

 「ちょっとNさん!凄く良さげな洞見つけたんだけど!」、この時自分は、目的が完全に「良い樹洞を探す事」になってしまっており、その先の本当の目的であるパキピドの存在を忘れてしまっていた。だから樹洞内をよく確認する事もなくNさんを呼んでしまったのだ。しかし、それは大きな間違いであった。駆け付けたNさんが懐中電灯で中を照らすや否や、「ちょっとおおお!?」とこちらを見て大声を上げたのだ。「いや、なに!?どうしたの?」自分も穴の中を覗き込み、懐中電灯で照らされた先、穴の真正面を見てみると...。「ちょ、いや、ええええ!?」なんと、そこにはこの日の目的であるパキピドが悠然と歩いていたのである。

 

 パキピドは本当に珍しい虫である。だから今日はまず見つけられないだろうと、今日は下見みたいなものだと、ヌルを覚悟して挑んでいたのだが、まさかこんなにあっさり見つかってしまうとは夢にも思ってもいなかったのだ。あまりの不意打ちに、2人で顔を見合わせて「嘘だろ!?」と、思わず笑ってしまった。それにしてもである!何故に自分はまず最初に洞の中を確認しなかったんだ!?これは間違いなく自分が第一発見者になれていただろうに!!その感動と栄光をむざむざNさんに譲ってしまう形になってしまい、ちょっと、いや、かなり後悔した。

 

 しかし、パキピドはそんな後悔も一瞬で吹き飛ばすほどの素晴らしい虫であった。穴が小さく生態写真の撮影は不可能だったため、採集してみる事にしたのだが、穴から取り出したそれを見て驚愕した。残念ながら上翅が変形した羽化不全の個体ではあったのだが、それがとんでもなく大きくて立派なオスだったのだ。まさかパキピドがこんなに大型のハナカミキリだとは知らなかった。その想像を絶する大きさに驚嘆し、たちまち心を奪われてしまった。このフォルムで、この色彩で、この大きさ!パキピド、とんでもなく良い昆虫だぞ!一気に好きなハナカミキリトップ3にランクインした(笑)。

 

 これは何としてでも生態写真を撮りたい!そのためには人が入れるくらい大きな洞を見つけなければ!というわけで、その後、散々斜面を歩き回って探し続けたのだが、そんな洞はそうそう見つからず、やっとこさ見つけても、そう都合よくパキピドがいてくれるはずもなかった。やはりそう甘い虫ではない。その後、直径が20cmほどのトチノキに空いた小さな洞で、なんとか1匹を見つけるも、やはり写真が撮れるような状況ではなく、結局、生態写真を撮る事は出来なかった。果たしてパキピドの生態写真を撮れる日は訪れるのであろうか?(2020年2月現在も、生態写真は未だに撮れていない...)

 

 因みにこの日は2人で計3個体を見つける事が出来たのだが、後から見つけた2個体はいずれも最初に見つけた個体より一回り小さく、どうやら最初の個体がたまたま異常に大きな個体だったというだけの事のようで、小さいほうがデフォルトのサイズらしい。更に余談だが、パキピドを指でつまんで捕らえた時、その太い脚の力はなかなか強く、こちらとしても、カミキリの脚がもげてしまうのではないかという心配があり、あまり強く押さえつけられなかったという事もあるが、ぐいぐい指を押しのけて見事に脱出されてしまい、逃げられてしまった。それはこの日唯一自分が見つけた個体であった(涙)。