キベリマルクビゴミムシ

Nebria livida angulata Banninger

体長|13~16.5ミリ

時期|-

レア度|★★★★★

RDBカテゴリー|EN

環境|池沼・谷津田・草地・農地・河川敷

分布|北海道・本州・四国・九州・伊豆諸島(御蔵島)

キベリマルクビゴミムシ

1. 2012.04 千葉県

キベリマルクビゴミムシ

2. 2012.05 千葉県

キベリマルクビゴミムシ

3. 2012.04 千葉県

キベリマルクビゴミムシ

4. 2012.05 千葉県

キベリマルクビゴミムシ

5. 2012.05 千葉県

キベリマルクビゴミムシ

6.生息環境 2012.05 千葉県

黒い頭部が特徴的なやや大型のマルクビゴミムシ。平地~丘陵地に生息し、池沼や田畑周辺の湿った草地などに見られる。日中は石下などに潜み、夜間に草地の裸地や池沼の水辺などに姿を現す。動きは俊敏だが、夜間は微動だにせず、ただ静止している事も多い。活動期は春季と秋季で、気温の高い時期は近縁のマルクビゴミムシと同じように夏眠していると思われる。かつては各地でごく普通に見られたというが、激減してしまい、いつの間にか幻の存在と化してしまっていた。激減した理由は、河川や池沼の護岸化や開発、農薬汚染、水質汚濁などが考えられているが、同じような環境に住む他のゴミムシがそこまで減少していないにも関わらず、本種だけが急激に姿を消してしまったのには何か別の要因があるからではないかとも考えられている。しかしそれが何なのかは分かっておらず、激減の理由はつまるところよく分かっていない。よく似た種にカワチマルクビゴミムシフタモンマルクビゴミムシ(黒化型などの色彩変異個体)がいるが、本種は頭部が黒色で上翅の第3間室に孔点がある事などから区別する事が出来る。本種とカワチはしばしば間違って同定されるうえ、同所的に見られる場合があるので特に注意が必要かもしれない。レッドデータブックでは絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されている。

 ゴミムシに興味を持ち始めた頃、保育社の図鑑をパラパラとめっくていて、マルクビゴミムシのプレート写真でひときわ目を引いたのが、大型で色が付いてる3種、すなわちカワチマルクビゴミムシ(以後カワチマルクビ)、フタモンマルクビゴミムシ、そしてキベリマルクビゴミムシ(以後キベリマルクビ)の色付きマルクビ3種(←勝手にそう呼んでいる)であった。この3種は是非とも見てみたい!

 

 そこで解説を見てみると、キベリマルクビは「平地に多い」とある。なるほどなるほど。多いならそのうち会えるだろう。そんな軽い気持ちでいたのだが、これが何年経っても一向に出会えないのだ。そしてだんだんと気が付くのである。「キベリマルクビ、多くはないよね?」「いや、むしろ少ないのでは?」「というかこれ絶対珍しいでしょ!!」そこで初めてネット検索してようやく知るのである、キベリマルクビが激減してしまったという事を!(←遅い)

 

 しかも、ネット検索で出て来るのは古い標本写真ばかりで、生態写真がただの1枚も出て来ない(出て来てもカワチマルクビの間違いだったりする)事から、少ないどころではなく、もはや幻の存在と化してしまっているという事が容易に想像出来るのであった。にも関わらず、当時いくら検索しても、昆虫ブログ等で本種が話題に上る事はなく、環境省のレッドデータブックでは情報不足にすら指定されていなかったのが不思議で仕方がなかった。こんな大型でカッコ良い虫、昆虫好きが放っておくハズないと思うのだが...。

 

 それからも密かに本種を探し続けていたのだが、その出会いは思わぬ形でやってきた。2012年4月下旬の事である。今までゴミムシは越冬中の個体ばかりを狙って撮影していたのだが、この時、活動しているゴミムシの写真を狙ってみようと思い立ち、ほぼ初めて夜間のゴミムシ探しに挑戦したのである。舞台は周りが草地に囲まれた護岸されていない良好なため池。この環境なら、アオゴミムシの仲間を中心に、何かしらのゴミムシが最低でも4~5種くらいは撮影出来るだろうという思惑があった。しかし、時期が早過ぎたのか、予想に反して見られるゴミムシは少なく、そこにいためぼしいゴミムシはカワチマルクビゴミムシとキアシヌレチゴミムシくらいであった。(それはそれで嬉しかったのだが...)

 

 そこで、今度は近くの草地に隣接する裸地でゴミムシを探してみる事にした。これは周りの草地に生息しているであろう何らかのゴミムシが、その裸地(草はそれなりに生えており地面はしっとり湿っている)に出て来てくれる事を期待しての事だったのだが、こちらも当てが外れて、黒くて小さな地味系ゴミムシがたまに見られるくらいで、ほとんどゴミムシを見つける事は出来なかったのである。流石にこれだけという事は無いだろう!?半ば意地になり、しつこく裸地での探索を続けたのだが、何も見つけられないまま時は過ぎ、時間は夜の11時を回ってしまった。気温も下がり、そろそろ諦めて引き上げようかという時だった。裸地の草間をそこそこ大きなゴミムシが素早く走り抜けていくのが見えたのだ。

 

 やれやれ、やっとお出ましか!さてこんな環境で見られるゴミムシは何だろう?植物の根際で静止したそれに懐中電灯の光を当てた瞬間、衝撃が走った。「こんな環境にマルクビゴミムシ!?」これはやばいと直感し、ゴミムシを刺激しないように慌てて懐中電灯の明かりを消した。急いで撮影の準備をしつつ、頭の中であれこれ考えていた。今のはカワチマルクビではなかったような気がする。そもそもカワチは水辺にいる種だからこんな環境にはいないはず。だとすれば、もうあいつしかいない!そう、キベリマルクビだ!きっとそうに違いない!

 

 心臓をバクバクさせながら、再びそこに懐中電灯の光を当てると、幸いにもそれはまだそこにいてくれた。「やっぱりカワチじゃない!」「これ当たりだ!キベリマルクビだ!!」撮影しながらその考えは徐々に確信へと変わっていった。それでも、あまりにも予想外過ぎる突然の登場だった事に加え、図鑑で見た個体より上翅後方の黄褐色部分が少なかったという事もあり、「これカワチじゃないないよね?キベリだよね?」という自問自答を、心の中で何度も何度も繰り返し、何度もそのゴミムシを凝視して、ようやくこれはキベリに間違いないと確信。じわじわとキベリマルクビを見つけたという実感と喜びが沸き上がってきた。

 

 しかもキベリマルクビは1匹だけでは無かった。夢中になって撮影していると、すぐ側からもう1匹登場して脇を駆け抜けていったのである!それを目で追いかけると、なんとその先でも1匹、さらに1匹、次々にキベリマルクビが姿を現したではないか!さっきまで何も見つけられなかったはずの裸地に、いきなり沢山のキベリマルクビが出現したのである!これはいったいどうゆう事だ!?こんなに大きなゴミムシを今の今まで見落としていたと言うのか!?何はともあれこうして幸運にも意図せずキベリマルクビを、しかも沢山!見つける事が出来たのである。かつてはこんな光景が各地で見られたのだろうか?(因みにここで見られたキベリマルクビはどれも頭部複眼間の赤色紋が消失気味で、上記で触れたように上翅後方の黄褐色部分が発達しないタイプばかりであった)

 

 ところで、突然キベリマルクビが複数現れた事について考えてみたのだが...。これはあくまでも勝手な想像だが、実は元々そこにいたのだが、植物の根際などで静止していたため見つけられず、本当に見落としていたのではないかという事である。草地の根際でじっとしてられたら見つけるのは困難である。あるいは周辺の草地から一斉に移動してきた事も考えられるかもしれない。どうも本種の本来の住処は草地な気がする。どちらにしても、気温が関係しているかもしれない。マルクビゴミムシの仲間はどちらかというとあまり高い気温よりも、ちょっと寒いくらいのほうが活発に活動するというイメージがある。深夜になり気温が下がった事で本種の活性が上がって動き出したという事も、可能性の1つとして考えられるのかもしれない?想像ばかりで申し訳ないが、あれこれ想像するのは楽しい。

 

 この場所、5月初旬にもう一度訪れてみたのだが、その時は裸地のみならず、すぐ近くを流れる用水路脇の地面にいるのも発見!4月下旬に見た時にはいなかった場所である。しかも、そこではカワチマルクビも見られ、それぞれ複数匹が同所的に見られるという状況であった。ただ1つ気掛かりな事があった。その用水路が護岸化(正確には石積み?のような感じ)の工事をしている真っ只中だったのだ。この工事が本種の生息に何らかの影響を与えなければいいなと思ったのだが、嫌な予感は的中してしまう。一見、草地と裸地は何も変わらずに残っているように見えるのだが、乾燥化でもしてしまったのか?キベリマルクビは翌年以降全く見られなくなってしまったのである。やはり本種の生息には何らかの厳しい条件があるのかもしれない?