オニホソコバネカミキリ

Necydalis gigantea Kano

体長|16.5~36ミリ

時期|6~8月

レア度|★★★★★

RDBカテゴリー|なし

環境|森林・林縁・社寺林・クワ畑

分布|北海道・本州・四国・九州・屋久島・対馬

1.♂ 2010.07 群馬県(生息地にてやらせ撮影)

2.♂ 2010.07 群馬県

3.♂ 2010.07 群馬県

4.♀ 2010.07 群馬県(やらせ)

5.♀ 2010.07 群馬県

6.交尾 2010.07 群馬県

日本特産の大型のホソコバネカミキリ(ネキダリス)で、この仲間としては日本最大。個体数が少ないうえ、発生期間がごく短く、なかなかお目にかかれない珍しい種で、虫屋さんからは、その学名から、ギガンティア(ギガンテア)、ギガン等の愛称で呼ばれ、憧れている人も多い人気の種。ヤマグワ・ケヤキ・トチノキ・アズキナシ・ブナ・ミズナラ・コナラ・イヌガシ・イチイガシ・エゴノキ・カエデ類・カンバ類・ポプラ等の古木生木の樹洞や腐朽部に集まり、交尾・産卵するほか、その周辺の葉裏に静止していたり、時にコーリングや交尾している姿も見られる。静止する際、後脚を跳ね上げた独特の姿勢をとる事が多い。早朝、日が昇り明るくなった頃には活動を開始し、食樹周辺を飛び回ったり、葉裏などに飛来する個体が見られる。クリやノリウツギ等の花や灯火に飛来した例もあるという。屋久島のものは別亜種に分類されている。

 2010年7月。オニホソコバネカミキリ(以後ギガン)を狙うべく、Nさんと共にとある場所を訪れていた。ここは前々から「いるんじゃないかな〜?」と目星を付けていた場所である。恐らく以前は農地として利用されていたと思しき場所なのだが、クワの巨木が平然と立ち並び、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。中にはいかにもギガンが好みそうな洞のある木も多く、「絶対にいる!」そう確信せずにはいられなかった。実はもうこの場所では何度か挑戦して敗北しているのだが、絶対にいるはずと信じて、懲りずにこの年もやって来たわけである。

 

 現地に着いたのは午前6時半過ぎ。ギカンは早朝にクワの葉裏にとまっているという話も聞く。早速、各々分かれ、クワの木を一本一本、丁寧に見て回った。5本目くらいのクワを確認した時だろうか、地上から4mくらいの高さにある葉の裏に、細長い影のような物があるのが目に入った。目を凝らしてみると脚のようなものも確認できる。「あれは、そうなのか?」「そうだよな?」「いや、絶対そうだよ!」「あああ、やばい、やばい、これはキタかもしれない...!!」

 

 急いでNさんを呼び寄せる。「(ギガン)いた~~~!!」それを聞いたNさんが、慌てて駆け寄って来た。しかし、ここでふと我に返った...。「(いや、待てよ、違う可能性もあるな...。期待を裏切ってしまうかもしれない...。)」「ごめん、ハチかもしれない!」慌てて付け加えた。しかし、Nさんに見てもらうと、間違いなくギガンだと言う。Nさんが言うなら間違いないだろう。と言うのもNさんは裸眼で2.0という驚異の視力の持ち主なのだ。「やっぱり、この場所にギガンはいたんだな!!」しかし、人生初ギガンを、自信をもって「いた!!」と断言出来なかった事が悔やまれる。まあそんな事はどうでもいいか...。

 

 高い場所にいるため写真は少し厳しいが、証拠的にでも写ってくれればとシャッターを切ったあと(写真2)、いよいよ採集してみることにした(後でやらせ写真を撮ろうという魂胆である)。自分は普段から生態写真の撮影がメインなのでネット(補虫網)は持ち歩いてない。というわけで採集はNさんにお任せである。「それでは、Nさん、お願いします!」。すると、Nさんの口から衝撃的な言葉が飛び出してきた。『(ネットの)竿、折れちゃった...(汗)』「え?」『竿、折れちゃった...』「はいいい~!?」なんでも下草をかき分けるのに使っていたところ、折れてしまったという。「ちょ、何してるんですか!?」「ネットそれしかないんですよ!?」(そもそもネットを持ってきてすらいない自分が言えた立場ではないのだが...)

 

 仕方なく、折れた竿と竿の間にその辺に落ちてる枝やら草やらを詰め込んで、応急処置的になんとか繋ぎあわせた。なんとも心許ない状態ではあるが致し方無い。ただでさえ緊張する場面がより一層緊張する事となった(って、採るのはNさんなのだが...)。で、慎重にネットを近づけるNさん...。まだ気温が低せいか?ギガンは微動だにしない。万が一ギカンが逃げても目で追えるようしっかりと見ていたのだが、それは見事にネットインされた。中を除きこむと...「な、何だこれはっっ!?」多くの虫屋さんが憧れるのもうなづける、あまりにもカッコ良すぎる、気高きギガンの姿がそこにはあった。まだ午前7時、探索開始から30分足らずの出来事であった。

 これは、まだいるに違いない!興奮冷めやらぬ中、追加を狙うべく各々クワのルッキングを再開した。すると程なくして、高さ5m程のところをハチのようなものが飛んでいるが目に入った。それはクワの葉めがけて、結構なスピードで飛んで来て、葉の周りを器用に旋回したかと思うと、「スッ」とクワの葉上にとまったのだった。飛び方からしてハチだろうなとは思いつつも、一応観察していると、次の瞬間、なんとそれは、器用に葉裏に回り込み、そのまま静止したではないか!ギガンだ!間違いない!「いたいたいた~!」慌ててNさんを呼び戻し、この個体も無事に確保する事が出来た。

 

 それにしてもギガンがあんなに器用に飛ぶとは驚いた。ギガンが葉裏にとまるのは有名な話だが、直接葉裏にとまるのでは無く、葉上にとまった後、葉裏に回り込むというのが意外であった(いつもそうなのかは分からないが...)。飛んでいるのを見つけてから葉裏に静止するまではあっという間の出来事であった。それに時間はまだ8時前、ネキは昼間~午後の昆虫というイメージがあったのだが、こんな朝っぱらから飛んでいるという事にも驚いてしまった。早朝に葉裏にいるのって、前日からの居残り組かと思っていたんだけど、もしかしてそうじゃないのか...?

 

 時間もようやく8時を過ぎた頃、先ほどギガンがいた木を見上げてみると、なんとまたしてもギガンを発見!「この木、ご神木か!?」今度は更に高い位置にとまっており、ネットが届くか届かないかのギリギリの高さであった。しかも竿は折れたのを辛うじて繋いであるかなり頼りない代物...。Nさんは果敢にも挑戦するが、やはりこの悪条件では厳しかったようで、ギガンはスルリとネットをかわし飛び去ってしまった。

 

 ところがである。Nさん曰く、ネットにギガンが入っていると言うのだ!「えええ!?そんな馬鹿な!?」間違いなく飛び去る姿を目撃したのだが...。何故...?そこで、発見時に証拠的に撮影した写真(写真6)を確認してみると、「あああ、交尾してる!!」そう、実は2匹のギガンがいた事が判明したのだ。先程の個体を採ってから大して時間も経っていないのに、新たな個体が飛来していたうえに、まさか交尾までしていようとは、これまた驚いてしまった。

 

 しばらくして、今度はNさんが声を上げた。『ギガンが凄いところにいる!』『写真が撮れる!』な、なんだとおおお!「(凄いところって何だ!?もしかして、樹幹にとまって産卵とかなのか!?)」これは大変だ!という事で、全力疾走でNさんのもとへ向かった。そして、Nさんの指さす先を見た瞬間、その勢いのまま「ズザザザ~~~」と、ズッコケた。いや、実際にこけたわけではないのだが、頭の中ではまさにそんなイメージであった。「なんか思ってたのと違~う!」確かに、写真が撮れそうなところにギガンはいたのだが、葉裏ではなく、なぜか表にとまってお馴染みの脚上げポーズをとっていたのだった(写真3)。

 

 いやいやなんで葉上で脚上げてるの!?なんか違和感が凄いのだが...。ギガンと言えば葉裏にとまって脚上げポーズがお決まりじゃないか!それが撮りたいのだ!しかも微妙に高くて撮りづらいし...。まあ、いい、このテンポで行けば、まだまだチャンスはあるだろう。この2時間たらずの間に5匹ものギガンを見つけていたため、完全に油断してしまい、たいして撮影もしないまま、より良いシチュエーションを求めてルッキングを再開してしまった。

 

 すると程なくして再びNさんが声を上げた。遠くて何を言っているのかよく聞こえないが、写真がどうとか言っているのは分かった。つまりギガンの写真が撮れるという事だろう!?「ほらキタ!」という事で、再び全力でNさんのところへと走った。そしてNさんが指さす先を見た瞬間、再び、「ズザザザ~~~」である。「ただのオオチャイロハナムグリじゃないか!(写真)」

 

 まさか、オオチャイロハナムグリにこんなにガッカリさせられる日が来ようとは思いもしなかった。いや、オオチャイロハナムグリ自体もかなり珍しい種であり、魅力的な種ではあるのだが、ギガンを前にしては、もはやただの外道に成り下がってしまうのであった。それほどまでにギガンの魅力は凄まじいものがあったのだ。(※この時における個人の感想です。悪しからず...)

 

 さて、気持ちを切り替えてルッキング再会だ!何しろまだ午前中である。午後になって気温が上がってきたら、凄い数が見られるんじゃないか!?それはもう期待に胸膨らませずにはいられなかった。が、しかしである。その後も飛んでいるギガンはしばしば目撃していたのだが、一向にとまっている個体を見つけられず、10時を過ぎた頃には、飛んでいるギガンすらも全く見られなくなってしまったのだ。「な、何故だ~?これからの時間帯が本番なんじゃないのか!?」

 

 なんと、そのまま、まさかのタイムアップ。もしかしてギガンって午前中の虫だったのか!?よく分からないが、この場所では午前10時以降全くギガンが見られる事は無かったのである。これはあくまで想像なのだが、午後は発見が難しい洞の中や、高所の衰弱部などに活動の場を移した可能性がある。

 

 あああ、それにしても、まさか葉上の脚上げギガンが最後の撮影チャンスだったとは...。今思えば、違和感があろうが、そこにいたのは紛れもない事実だったというのに。いや、むしろ葉上の脚上げポーズは貴重なシーンだったかもしれない...。あああ、なんでもっとしっかり撮影しなかったんだろう...。なんと愚かな自分...。後悔先に立たずである。そんな訳で、不本意ではあるものの、やらせ写真も撮影。せめてものこだわりとして、採集地にて野外撮影したものが写真1写真4である。