トホシカミキリ

Saperda alberti Plavilstshikov

体長|12~20ミリ

時期|6~8月

レア度|★★★★★

RDBカテゴリー|なし

環境|森林・土場

分布|北海道・本州

1. 2009.06 栃木県

2 2009.06 栃木県

3. 2009.06 栃木県

4. 2009.06 栃木県

5. 2009.06 栃木県

6. 2009.06 栃木県

7. 2009.06 栃木県

8. 2009.06 栃木県

9. 2009.06 栃木県

10. 2009.06 栃木県

11. 2009.06 栃木県

トホシカミキリ族のカミキリムシとしては大型で、本州では生息地がごく限られる。山地に生息し、ドロノキ・バッコヤナギ等の生木に集まり、葉を後食するほか、それらの倒木や衰弱木にも集まり、そこに産卵する。生息地では、条件の良い木があれば、多数が集まっている事もある。特に夕方、活発に活動する。

2008年、とある有名な昆虫ブログに衝撃的な記事が投稿された。本州、それも関東でトホシカミキリを見つけたと言うのだ。しかも複数匹!そこには見事な生態写真まで載せられていた。これは自分にとって本当に衝撃であった。トホシカミキリといえば本州ではかなり稀な種で、幻の虫くらいのイメージを持っていたからだ。ましてやその生態写真の撮影など、夢のまた夢、北海道に行かない限り到底叶わぬものと思っていた。「関東でもトホシカミキリの生態写真を狙える場所があるんだ!」それは羨ましくも嬉しいニュースであった。

 

その年、ネットでは、同じエリアでの事だと思われるトホシカミキリの記事があっちこっちで投稿され、さながらちょっとしたトホシカミキリブームが巻き起こっていた。その場所が何処なのか、Nさんはおおよその検討がついているようであったが、その年はトホシカミキリに挑戦する事は無かった。トホシカミキリブームでその場所に虫屋さんが殺到しているようなイメージがあり、ちょっと気が乗らなかったのだ。そして翌6月下旬。Nさんと何処に行こうか相談している時、ふとトホシカミキリの事を思い出し、行ってみようか?という事になったのである。

 

Nさんが目星を付けた場所に行ってみると、そこかしこに虫屋さんと思しき人の姿!どうやらNさんの読みは当たったようだ。まずは川沿いを歩いて、ホストであるドロノキを探す事にした。しらばらく探索していると異様に存在感のある巨大な倒木を発見!そして、その傍には数名の虫屋さんと思しき人の姿。それは紛れもなく、去年、昆虫ブログに散々登場していたドロノキ倒木そのものであった。去年倒れたはずなのに、今年倒れたかのような新鮮さが未だに残っている。安定しない河川敷という環境に生える植物だけに、その生命力は相当なものがあるのかもしれない。

 

虫屋さんがいるという事はまだこの木にトホシカミキリが飛来するという事なのだろうが、先客がいては仕方が無い。他にも倒木はあるだろうと、先に進んでみる事にした。しばらくすると、小さいながらドロノキの倒木を発見!しかし、先程の倒木と比べるとあまりにもしょぼい印象だ。しばらくその倒木の前で待ってみたものの、残念ながらトホシカミキリが飛来する事は無かった。更に探索を続けるが、結局新たにドロノキの倒木を見つける事は出来ないまま、時間だけが過ぎてしまった。残念だが、今回はここまでのようだ。

 

来た道を引き返し、巨大なドロノキの倒木のところまで戻って来ると、そこにはまだ虫屋さんと思しき人の姿。しかし、どうにも気になるので少しだけ倒木を見させてもらう事にした。参考までにトホシカミキリが飛来する倒木の状態だけでも見ておこうと思ったのだ。しかし、次の瞬間Nさんが声を上げた!「いた!産卵してる!」慌ててNさんのところに駆け寄ると、そこには紛れもなくトホシカミキリの姿が!こうして運良くもトホシカミキリを撮影する事が出来たのである。

で、その翌週...。性懲りもなく、再び同地を訪れてしまった。この時は、なぜか虫屋さんの姿が無く、あのドロノキの倒木の所にも誰もいなかった。しかし、肝心なトホシカミキリも一向に姿を現さなかったのだった。「もうシーズンが終わってしまったのだろうか?」そんな考えが頭をよぎる。しかし、トホシカミキリが活発に活動するのは夕方、薄暗くなってからという話もある。思えば、先週トホシカミキリを見つけたのも16時頃の話だ。そこで、もう少し様子を見てみる事に...。

 

ただ1つ問題があった。この場所にはバスを利用してやって来たのだが、その最終バスの時間が迫っていたのだ。「あああ、そろそろバス停に向かわないとまずい...。」そんな時である。ついにトホシカミキリが飛来したのだ!それも立て続けに2匹!やはりトホシカミキリは夕方の虫なのか?これからの時間帯がトホシカミキリのゴールデンタイムなのか?しかし最終バスに乗る為にはもう行かなければならなかった。いよいよこれからという時に...。もしかしたら今からトホシカミキリフィーバーが始まるかもしれないのに...である。

 

果たしてこのまま帰ってしまっていいのだろうか?薄暗くなった時のドロノキのを観察しないでいいのだろうか?もしかしたらトホシカミキリの交尾写真をものに出来るかもしれないのに...。そこで、Nさんにバスを諦め、トホシカミキリ撮影を続ける事を提案。「Nさん!帰りは歩いて帰りませんか?」「たかだか4km(←超適当)!大した距離じゃないって!」適当なことを言ってNさんを説得。Nさんもこれを(渋々?)了承した。こうして時間を気にせず撮影が続けられる事となった。

 

それからは次々にトホシカミキリが飛来!フィーバー状態に突入!交尾写真もしっかり撮れてしまう...予定だったのだが...。あれ...?おかしいな...。2頭目以降、パタリと飛来がストップ。嘘みたいに静まり返ってしまったのだ。「え?まさかこれでお終い?」辺りは次第に暗くなっていき、不穏な空気が漂う。「まずい...。このまま飛来しなかったらどうしよう...(汗)」バスに乗らないことを提案した手前、だんだんとプレッシャーがかかってきた...。頼む!飛んで来てくれ!頭の中で祈っていると、突如としてその時は訪れた。

 

「いた!」Nさんが声を上げる。見ると、倒木本体とは別の、折れて地面に転がっているドロノキのやや太めの枝にトホシカミキリの姿があった。それを撮影しようとカメラを向けると、すかさずNさんが叫ぶ!「こっちにもいる!」更に今度は自分の目の前にも別個体が出現!更に更に次々と姿を現すトホシカミキリ!撮影しようと1匹にカメラを向けていると、その傍から1匹、また1匹と、何処からともなく現れるトホシカミキリ!

 

飛来する姿は一度も目にしていないにも関わらず、2人で見ている側から、次々にトホシカミキリが出現したのである!いったい何が起こったというのか!?本当に不思議で、よく理解出来なかった。もかしたら、倒木と地面との接地面、その隙間に待機していた個体が一斉に表に出て来たのだろうか?あるいは単純に飛来を見逃していただけなのか?いろいろ想像してみたが、真相は謎のままである。とにもかくにも存分にトホシカミキリを撮影することが出来、大満足であった。

 

ただこの後が少し大変なのである。そう、これから徒歩で戻らなければならないのだ。しかもバス停に貼ってあった地図を見て衝撃的な事実が判明した。「帰り道10km以上ある...(汗)」「4kmって言ったよねえ?(怒)」(4kmは適当だったからなあ...。しかし、まさか10km以上あったとは...汗)「ま、まあ、大丈夫でしょう?(汗)」振り向くのが怖かったので、Nさんのほうを向かずにそのまま歩き始めた。Nさんは黙っていたが、Nさんがリュックに付けていたクマ鈴の音色から、Nさんが後ろをついて来ているという事だけは分かった。き、気まずい...。

 

辺りはみるみる暗くなっていき、それに伴って周辺からは一気に動物の気配が漂う。時おり何処からともなく「ガサガサ...」という音が響きわたり、クマが出てくるのではないかとビクビクしながら歩き続ける...。暗いし、怖いし、気まずいし...。歩くスピードは早くなる一方で、もう、まるで競歩でも競ってるのかのような、凄いスピードで歩き続けた。そしてついに10数キロを無言のまま走破!もう、足はガクガクであった。まさか最後の最後にこんな試練が待っていようとは...。トホシカミキリフィーバーの代償はなかなか大きなものであった。