ケブカトラカミキリ

Hirticlytus comosus (Matsushita)

体長|8~14ミリ

時期|4~7月

レア度|★★★★☆

RDBカテゴリー|なし

環境|森林・林縁・防風林・イヌマキ圃場・生垣・庭木

分布|本州(千葉県・国内移入)・四国・九州・屋久島

1. 2011.05 千葉県

2. 2011.05 千葉県

3. 2011.05 千葉県

4. 2011.05 千葉県

5. 2011.05 千葉県

6. 生息環境

7. 2009.05 千葉県

8. 2009.05 千葉県

9. 2009.05 千葉県

10. 幼虫の食痕

11.古い被害木と羽脱孔

全身が長い毛に覆われた特徴的な姿をしたトラカミキリ。ナギ・イヌマキの生木に集まり、交尾・産卵する。産卵された木は、幼虫の食害が進むにつれて衰弱し、やがて枯死してしまう。元々、本州には生息していなかったが、園芸用のイヌマキと共に侵入したようで、2008年に千葉県匝瑳市で初めて確認された。この時、本種によるイヌマキ被害は既にかなりの広域にわたっており、実際に侵入したのはこれよりずっと前だった事が推察された。イヌマキは生垣や庭木としてよく利用されており、特に千葉県では温暖な気候がイヌマキの生育に適している事から栽培も盛んで、「千葉県の木」にも指定されており、そこかしこにイヌマキがあるため、一気に増え広がってしまったようだ。現在は匝瑳市以外の複数の市町村でも生息が確認されており、完全に定着してしまったと思われる。千葉県では完全に害虫扱いだが、本来の生息地では個体数も少なく、珍しい種とされている。

2009年の冬のこと、当時お世話になっていたSさんから突然チラシのようなものを手渡された。 そこには、本来、四国・九州にしか生息していないはずのケブカトラカミキリ(以下ケブカトラ)が千葉県のイヌマキ圃場に侵入して被害が出ているという事が記されており、注意を促すものであった。 Sさんによると、それを知ったカミキリ屋さんがその場所に殺到しており、既に相当数のケブカトラが見つかっているのだとか...。 この時期、ケブカトラはイヌマキ材中で既に成虫になっているため、虫屋さんは材による採集に勤しんでいるらしい...。

 

早く行かないと採り尽くされてしまうかもしれない...。しかし、この時は特に焦りを感じる事は無かったのである。ケブカトラはとても小さなカミキリというイメージがあり、イマイチ魅力を感じていなかったのだ。 ただ、Sさんに教えて頂いた事が嬉しく、必ず撮りに行こうとは考えていた。 友人のNさんにこの事を話すと、思いがけず、大きなリアクションが返ってきた。「ケブカトラが千葉で!?」 聞けば、Nさん、ケブカトラをずっと見たいと思っていたのだそうだ。


「ケブカトラってそんなに良い虫だったっけ?」だんだんと興味が湧いてきて、図鑑やネットで調べてみているうちに、すっかりとその魅力に心奪われてしまい、写真を撮りたいという気持ちはどんどん大きくてなっていった。 そうなると今度はケブカトラの事が気になって仕方が無い! 一刻も早く現場に向かいたいのだが、今行ってもケブカトラは材の中。生態写真を撮るためには春が来るまで待たなければならなかった。 「あああ...頼むから残っていてくれ!」祈るような気持ちで春が来るのを待ったのである。


そして、待ちに待った5月、Nさんと共にその場所を訪れた。 懸念していた虫屋さんによる材採の影響だが、現地を訪れてそんな心配が全くの無用であった事が分かった。 ケブカトラは既にかなりの広範囲に拡散しているようで、民家の植込みから街路樹まで、その被害は至る所に見られたのである。 心配すべきは採り尽くされる事などではなく、増えすぎてしまっている事だったのだ。

 

早速、探索開始! 被害の大きさからして直ぐにでも見つかるのでは?と思ったのだが、これが意外にも苦戦する事となった。 イヌマキの幹に数えきれない程の羽脱孔があるようなところもあっちこっちにあるのだが、既に農薬などによって駆除された後なのか?全く姿が見られない。イヌマキ圃場の人達はケブカトラを根絶すべく、総力を挙げて駆除に全力を注いでいる。もしかしたらそんな努力の成果が現れ始めているのだろうか?

 

そんな事を思いつつ、特に被害の大きかったポイントを見ていると、Nさんが声を上げた。 「いた!」 指差す方向を見ると、イヌマキの枝上にケブカトラの姿が! 想像していたより遥かに大きい! (※ここの個体は、本来の生息地のものより大型らしい) 独特の色彩も素晴らしい!めちゃくちゃイイ虫ではないか!自分は今までこんなに良い虫に無関心だったのか...。

 

残念ながらこの個体には逃げられてしまい、追加の個体も見つける事が出来なかかったため場所移動。車を適当に走らせていると、遠目からでも明らかに、「これは絶対にいる!」と、確信出来る場所を見つけた。それは道路脇のちょとした空き地だったのだが、10本以上のイヌマキが衰弱し、所々に茶色い葉を付けていた。さっそく車を止めるや否や一目散にイヌマキのところに走るNさん!(ズルい!)そして、次の瞬間には「いた!」の叫び声!その手にはしっかりケブカトラカが握られていた。


「なんで写真撮る前に採っちゃうの!?写真撮らせてよ!(怒)」「いや、なんかいっぱいいるから...」「へ?」半信半疑でイヌマキのほうに目を向けると、直ぐにケブカトラの姿が目に飛び込んできた。 見える範囲のイヌマキほぼ全てに、それぞれ複数匹のケブカトラカミキリ! 本当に沢山いる!2人で夢中になって撮影した。

 

しばらく撮影を続けていると、圃場の関係者と思われる方?から声をかけられた。聞けば、「見かけたケブカトラカミキリはとにかく全て殺しておいてほしい」との事であった。ケブカトラは国内移入種、ここは圃場の人の為にも協力しなければ!そんなわけで、目についたケブカトラを全て採集したところ、なんだかとんでもない数になってしまった。その数かるく70以上。ここのイヌマキ被害の深刻さを痛感した。